ストリーミング導入に伴う音楽市場の変化について

音楽市場においては、ある楽曲を気に入るかどうかはその楽曲を実際に聞いてみないとわからないという特徴がある。そして気に入りそうな楽曲を探すには探索コスト*1がかかる。探索の方法には次のような方法があった。

方法 金銭的コスト 機会費用*2
1.試聴機によるリコメンド なし
2.ランキング番組の確認 なし
3.歌番組を視聴する なし
4.CMで耳にする なし
5.音楽雑誌によるレビュー あり
6.試し買い あり

ここで次のようなリスナーを想定する。

  • 学生。比較的収入が低いが、時間はある。
  • 社会人。比較的収入が高いが、時間はない。

このとき、この二者は次のように行動し、次のような結果を招くと予想される。

  • 学生は金銭的コストをかけず機会費用をかける。よって1-4の方法を主に採用でき、気に入る楽曲を十分に探索してから買う。結果としてはずれを引く確率は低く、満足度は高い。
  • 社会人は機会費用をかけないが金銭的コストをかける。よって5-6の手段ぐらいしか採用できず、気に入る楽曲を十分に探索することなく買う。結果としてはずれを引く確率は高く、満足度は低い。

したがって学生の頃は音楽を聴いていた人も、社会人になってからは満足度が下がりやすく、そもそも音楽を買わないという意思決定をしがちで、結果としてリスナー層が若い傾向にあったと思われる。

そんな中、ここで新しい方法が現れた。それはストリーミングである。ストリーミングは試聴が手軽にできるので、探索コストは劇的に低くなって気に入る楽曲を見つけやすくなり、リスナーの満足度は高くなった。また機会費用が高い社会人でも採用しやすく、結果としてリスナー層の年齢幅は広がったと思われる。

一方でそれを踏まえての新しい事態が生じた。それはストリーミングでは試聴可能なアーティストが多すぎ、すべての楽曲を試聴するとトータルでの探索コストは高くなるため(選択過剰負荷の問題)、結果として探索を途中で打ち切る人も出てくるという事態である(例:気に入ったアーティストからのみ楽曲を購読する戦略、長い曲を聞かない戦略)。気に入る楽曲が多数あるのが望ましいという観点からは、これはリスナーの満足度を下げる事態なので好ましくない。

こういった傾向に対しては探索コストを低減させる対策が有効であり、現状ではさまざまな手段が取られていると思われる。(もちろん前述した1-6の方法も取られなくはないが、デジタル化により大幅に組み変わってしまっているのが現状である。)