音楽ストリーミングサービスの利点と欠点について

音楽ストリーミングサービスの利点

Spotifyは、海賊版の撲滅を掲げている。海賊版より優れたサービスを構築することで、不法なファイル共有にストップをかけた上で合法的に音楽業界に還元できるように設計されている。

Spotify | IT用語辞典 | 大塚商会

ここで海賊版の特徴としては、金銭的コストはゼロだが探索コストはかかるということが言える。海賊版は警察の摘発を逃れるため地下に潜ったり、実際に摘発されてサイトごと消滅するなどするため、探索コストは比較的高い。そこに金銭的コストは多少かかっても探索コストがゼロに近いサービスが提供されれば、総合的に見てそちらの方がコストが低い場合もあるため、そちらを使うようになることが予想される。

ちなみに、iTunesが登場した際もそういった流れが予想されていたはずだが、価格が予想されていたより高すぎたのか、はたまた利便性が低すぎたのか(FairPlayは海賊版に比べれば制限があった)、海賊版を撲滅するには至っていない(だからこそ音楽ストリーミングサービスが登場したのだが)。

ここで問題になるのは、収入は低いが探索コストをかけるだけの時間はあると見られる学生たちであると考えられ、そのためか彼ら向けには特別に安いプランが提供され、海賊版に手を出さないよう誘導されている。

海賊版に手を出す人が減れば、海賊版に規模の経済*1が無くなるので、海賊版サイトの存立が難しくなると予想される。

現行の音楽ストリーミングサービスの問題点

しかし音楽ストリーミングサービスには収益の面ではおそらく問題がある。

一つは、定額制のエコシステム内なので価格メカニズムが使えないという問題である。つまり、気に入った曲でも気に入らなかった曲でも1再生回数分しか収益が入らない。もちろん気に入った曲は何度も再生されるためその意味では収益は上げられるが、それ以上の収益は入らない。これは熱烈なファンを持つアーティストでは典型的だが、音源に高い価格をつけて収益を上げるという方法が採用できない。たまにしか再生しないがそれでも音源を買いたいという場合にもそぐわない(iTunesは価格がつけられるので対応できる)。

もう一つは、サービス提供者が収益を配分する権限を一括して握っているため、適切な配分が行われない恐れがあるという問題である。もちろんアーティストからの圧力で収益配分アルゴリズムは彼らには公開されているだろうし、それなりに適切なアルゴリズムが採用されていると思われるが、価格メカニズムを利用できない以上、限界はある。

総じて言えば、個々の音源が生み出す効用を反映した収益を生み出してはいない。

そういった問題があるので、現行の音楽ストリーミングサービスもまだ安定的なものとは言えない。早晩、問題を解決するために新しいサービスが現れ、それが高い収益を上げるようになるだろう。ただ、高い収益を上げるということは、海賊版撲滅のためには価格は下げざるを得ないということとは矛盾するので、収益を上げるにしてもそう高価にはならないとは思われる。

ストリーミング導入に伴う音楽市場の変化について

音楽市場においては、ある楽曲を気に入るかどうかはその楽曲を実際に聞いてみないとわからないという特徴がある。そして気に入りそうな楽曲を探すには探索コスト*1がかかる。探索の方法には次のような方法があった。

方法 金銭的コスト 機会費用*2
1.試聴機によるリコメンド なし
2.ランキング番組の確認 なし
3.歌番組を視聴する なし
4.CMで耳にする なし
5.音楽雑誌によるレビュー あり
6.試し買い あり

ここで次のようなリスナーを想定する。

  • 学生。比較的収入が低いが、時間はある。
  • 社会人。比較的収入が高いが、時間はない。

このとき、この二者は次のように行動し、次のような結果を招くと予想される。

  • 学生は金銭的コストをかけず機会費用をかける。よって1-4の方法を主に採用でき、気に入る楽曲を十分に探索してから買う。結果としてはずれを引く確率は低く、満足度は高い。
  • 社会人は機会費用をかけないが金銭的コストをかける。よって5-6の手段ぐらいしか採用できず、気に入る楽曲を十分に探索することなく買う。結果としてはずれを引く確率は高く、満足度は低い。

したがって学生の頃は音楽を聴いていた人も、社会人になってからは満足度が下がりやすく、そもそも音楽を買わないという意思決定をしがちで、結果としてリスナー層が若い傾向にあったと思われる。

そんな中、ここで新しい方法が現れた。それはストリーミングである。ストリーミングは試聴が手軽にできるので、探索コストは劇的に低くなって気に入る楽曲を見つけやすくなり、リスナーの満足度は高くなった。また機会費用が高い社会人でも採用しやすく、結果としてリスナー層の年齢幅は広がったと思われる。

一方でそれを踏まえての新しい事態が生じた。それはストリーミングでは試聴可能なアーティストが多すぎ、すべての楽曲を試聴するとトータルでの探索コストは高くなるため(選択過剰負荷の問題)、結果として探索を途中で打ち切る人も出てくるという事態である(例:気に入ったアーティストからのみ楽曲を購読する戦略、長い曲を聞かない戦略)。気に入る楽曲が多数あるのが望ましいという観点からは、これはリスナーの満足度を下げる事態なので好ましくない。

こういった傾向に対しては探索コストを低減させる対策が有効であり、現状ではさまざまな手段が取られていると思われる。(もちろん前述した1-6の方法も取られなくはないが、デジタル化により大幅に組み変わってしまっているのが現状である。)

作詞にブレイクスルーあり?

YOASOBI×直木賞作家のプロジェクト始動、第1弾「ミスター」原作は島本理生(動画あり / 島本理生コメントあり) - 音楽ナタリー

「ミスター」は島本理生辻村深月宮部みゆき森絵都という4名の直木賞作家とのコラボプロジェクトの第1弾。“はじめて〇〇したときに読む物語”をテーマにそれぞれが書き下ろした小説を原作に、YOASOBIが楽曲を制作する。

音楽業界ではここ20年ぐらいでデジタル化にまつわる技術革新がありました。各要素を見ていくと、

  • 配布: CDからネット配信へ
  • 作曲: DTMの進化
  • MV: 有料放送からYouTube
  • コミュニケーション: テレビ出演や音楽雑誌から、ネットへ
  • グッズ販売: ネット通販へ

良しあしは置いておいて、音楽業界のすべてを変えたことは間違いありません。

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海賊版の被害が最も少ない国?

synodos.jp

音楽の場合、図5に見るようにCDの売上がピーク時の半分にまで減ってから定額配信が伸び始めた。これに対し、日本は例外的にCD(+音楽ビデオ)の売上があまり減らず、海賊版の被害が最も少ない国であった。著作権法的には優等生であったが、その結果、日本は音楽の定額配信では大きく出遅れることになる。

この点、日本の音楽業界の特殊性があるので、一概に「著作権法的には優等生だった」などとは言えないのでは。
まず日本はもともとCDに再販制度を敷いていた唯一の国で、それに伴ってかCD価格は世界一高く、その弊害と緩和するためかレンタルCDという代替手段(二次市場)がありました。そのため、熱烈なファンがCDを買い、そうでない人はレンタルを利用するという二重構造が元から定着していて、海賊版の登場以降もレンタル利用者が海賊版に移行しただけであまりこの構造が変わらずそれゆえに影響を受けなかったのだと見るべきなのでは。*1

これ、上記の二重構造は見方によってはフリーミアム的ですが、違うのは二次市場が合法かそうでないかという点ぐらいですかね*2海賊版が横行するような状態では、音楽流通がアングラカルチャーと化して音楽全般が後ろ暗いものとなってしまい*3、文化の発展を阻害する危険性があるように思われるので、あまり望ましくはないわけで、合法なチャネルに回収するに越したことはないですね。

日本は音楽配信の定額配信では大きく出遅れることになったとの話ですが、上記の二重構造を考えると、かえってレンタル二次市場に慣れていた分だけ日本の音楽業界もうまく立ち回ることができるんじゃないですかね。プラットフォームが取られてしまっているので利益が上がるかどうかはわかりませんが。

*1:この推論が成り立つかどうかは統計データを見ればわかるでしょうが手元にありません。

*2:レンタルCDのデジタル私的複製って合法でしたっけどうでしたっけねぇ

*3:CCCD等の対応策が正当な利用者に不満を持たせたことはもっと重視されてよい、あれで音楽業界ひいては音楽全般を嫌うようになった人も多いはず

CAPSULE新曲のMVについて

www.youtube.com

これ、1980年代シティポップの流行を見て、「1980年代の焼き直しが面白いって?じゃあ実際に見てみたら?」といった感じで作ったMVなんじゃないかなぁと勝手に想像。

だって上のMV、明らかにこれ↓のセルフパロディだもの(セルフパロディという手法それ自体1980年代的だけど)
www.youtube.com

そうだとすると(仮定)、私個人の感想としては、いろいろキツいなぁ、厳しいなぁと思う。以上。

追記:
こんな解説がありました。
realsound.jp